国土交通省による大気汚染測定局の設置・運営に関する問題点
(財)公害地域再生センター(あおぞら財団)
研究主任 傘木宏夫
各地の道路公害訴訟では、行政による大気汚染観測・監視体制の不備を指摘し、相次ぐ公害訴訟の勝利は、測定局の整備という形で実を結びつつある。しかし、それらの観測局の多くは国土交通省の設置・運営であり、そのことによる問題点が露呈している。
国土交通省による観測局の設置の動向
大阪市西淀川区では、公害訴訟の和解条項に基づき、1998(平成10)年10月より歌島局(国道2号)と出来島局(国道43号)で観測を開始した。ただし、前者は、1999(平成11)年9月の大雨被害で測定を中止し、現在移設工事が進められている。尼崎市南部でも、1998(平成10)年4月より西本町局(国道43号)にて測定を開始しており、これら3局の測定結果については、2000(平成12)年3月30日に発表している。
現在、公害訴訟の和解に受けて、尼崎市南部、川崎市南部においても、それぞれ新たな測定局の設置の具体化が協議されている。また、観測体制の不備が地裁からも指摘された名古屋市南部では、平成12年度中に1ヶ所(東築地町)、平成13年度に5ヶ所(東築地町、要町、七条町、いろは町、善進本町)、あわせて6ヶ所を一気に新設することを発表した。
西淀川での経緯等
区内2局では、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素酸化物、浮遊粒子状物質の4項目を測定している。公害訴訟原告団では測定データの公開等を再三求めてきたが、近畿地建はデータ補正の必要性を口実に速報値の公開を拒んでいた。その後、昨年3月に測定結果を報道機関に発表したが、原告団側は取材電話で初めてそれを知るという状況であった。
そのデータも、集計方法が環境行政のそれとは違うため比較しがたく、出来島局に関しては近接の出来島小学校局(大阪市設置)と比べると濃度がかなり低い。ちなみに、近畿地建の測定局は乾式測定法を、大阪市の測定局は湿式測定法を使っている。また、歌島局は浸水で欠測、尼崎・西本町局は試料大気吸引ポンプ部の破損で参考値のみと、測定体制も安定性がない。こうした経緯や内容に原告団側は不信を募らせる一方であった。
歌島局の移設は、「浸水等の心配がなく、測定にふさわしいところを慎重に選定中」を理由に、工事着手に1年半を要した。しかし、移設された測定機器の格納庫は、浸水被害時とほぼ同じ高さ(90cm)である。さらに、大気汚染物質の吸引口は、地上から約4m、車道の道路端から4m80cm程離れて、大野川緑陰道路の木立に隠れている。原告団の抗議を受けて、近畿地建は「設置方法は良くないが、適当な場所がないので仕方がない」と弁明しつつも、80cmだけ沿道に吸引口を沿道に寄せることを約束した。
国土交通省が設置・管理者であることの問題点と提案
西淀川での経緯などから、国土交通省が沿道測定局を運営することについては、①環境行政の測定データと交換されない、②データの公開方法が不十分、③観測体制そのものが不備・不安定、④測定体制拡充への対応が不明などの問題点を指摘することができよう。
④は重要な点である。沿道大気汚染は、NO2やSPMに加えて、PM2.5やベンゼンなどの有害化学物質への対応が求められている。環境行政においては、有害大気汚染物質対策の強化方策が打ち出しており、今後は観測体制の拡充が見込まれる。その際、各地の沿道測定局が環境行政と切り離した形で整備されていった場合、不都合が生じかねない。
私は、これらのことから、沿道測定局の設置経費については、公害訴訟などを踏まえて、国土交通省が負担することは当然あるべきこととしつつも、管理・運用は地元自治体に移管すること。その際、設置場所等は地元公害患者会などの立会いの下に詳細を設計すること。そして、測定項目は少なくとも、窒素酸化物(NOx)、二酸化窒素(NO2)、一酸化窒素(NO)、浮遊粒子状物質(SPM及びPM2.5)、ベンゼン、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、風向・風速、温度・湿度などを含めること。これらが重要と考える。
省庁再編は縦割り行政の是正に主眼があるといわれている。国土交通省は、道路行政に対する縄張り意識を捨て、平たく言えば「餅は餅屋で」のことわざの通り、沿道大気汚染測定については、用地の提供とハードの整備には責任を負いつつも、整備方法や運用については専門である環境行政に委ねるべきである。少なくとも、兵庫県と阪神高速道路公団の関係においては、公団の測定局のデータがすべて兵庫県に一本化されており、環境白書にも掲載されているが、そのような扱いとするべきである。